よしもとばなな『彼女について』

タイトルを見て、軽い気持ちで読んだら、
胸の奥底に強烈な一発を撃ち込まれた気分になれた。
そんな作品。


ばななさんの人となりを知るを知るわけではないのだけれど、
子ども達に起こる不幸な出来事に対する彼女のやるせなさを感じた。
すべての子どもは幸せになる権利がある。
すべての人にと言うべきかもしれないけれど、
大人になったら自己責任で動くべき部分もあるので、
受け身な分だけ、特に『すべての子どもは』と考える。
少なくとも小学校低学年くらいまでは無条件の愛情を注がれるべきだろう。
そこから少しずつ、大人になるために段階的に学んでいかなければならない。
一つの区切りとしては納得できるけれど、
20歳を超えたら大人、それまでは子どもってのはおかしい。
「未成年のうちは何でもあり」
そんな言葉を言う人間を信用してはいけない。


すべての子どもは幸せになる権利がある。
それなのに実際はそうでなく、見るに堪えない家庭がある。
聞くに堪えない事件が多い。
それらを知ったとき、どう感じるのか。
「かわいそうに」「腹が立つ」
愛情を受け、人間として育ってきた人であれば持つであろう感情。
さらに一歩踏み出してみればどんな気持ちをもつだろう。
もしくは自分の身近で起こった事件であればどう感じるだろうか。
「○○しておけばよかった」「何かできなかったのか」
悔恨の気持ちに襲われるだろう。
被害者にも加害者にもなりたくない。
でも、救えるのであれば救いたい。
そんな気持ちをもつ生き物こそが人間ではないだろうか。


この物語はあくまでもファンタジーだ。
それでも、主人公たちのように魂の救済が行われればいいのに。
そう思わずにはいられない悲劇が多い。
悲しくも、美しい、そして辛い物語だと思えた。


これまで読んできた彼女の作品と比べ、
根底に流れるものは同じだけれど、
より一歩踏み込んだ観がある。
そして個人的には西成の事件、秋田の事件を想起させてくれた。


彼女について

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