16歳の合衆国

TSUTAYAの80円キャンペーンは時間を奪う罠だと思われる。
そのおかげで映画をレンタルする気になるのだから、文句は言えないけれど。

今回、見たのは『16歳の合衆国』。
ずいぶん前に予告編を何かで見て、気になっていた作品。
間違いなく見た後、気持ちが沈むと分かっているのに、
ついついこういう作品を選んでしまう。



感想とも言えんようなことを書きなぐってみる。
けっこうネタバレあるんで、
この映画に興味ある人は見てから読んだ方がいいかもしれません。





アマゾンの紹介には
恋人の弟を殺してしまった16歳の少年の繊細な心模様を描く青春映画。
とある。


恋人とあるが、事件発生時には元恋人であり、
彼女(ベッキー)との関係は断片的に物語に組み入れられている。
ドラッグから抜け出せないベッキーは主人公に依存しようとし、
最終的に裏切りってしまう。
その姿はまるで愛して欲しいと駄々をこねる子どものようだった。
家庭で満たされないものを同じ歳の少年に求めつつ、
ドラッグと年上の男にも逃げていく。
優しい家族に囲まれながら、彼女のなかには歪みがあった。
「Everything is OK」
主人公にとって彼女は求めてくるだけの存在だった。


主人公リーランドは犯行後、
家で母親に
「I think I made a mistake(ボクは過ちを犯したと思う)」
と伝える。
この時、彼がいた熱帯魚の水槽前で母は祈り続けることになる。
どんな過ちを犯そうと母にとって子どもとは大切な存在である。
祈る母の姿が痛々しくもあり、美しくもある。
大人の視線で見ると彼女だけは物語を通し、
常にリーランドの味方であったように見える。
しかしリーランドにとっては与えてくれる存在でなかった。
夫の不在により彼女は満たされていなかった。


未成年が事件を起こしたことは大きなニュースになる。
ましてやその少年の父アルバートが著名な作家であったのだから。
アルバートはリーランドが6歳の頃からパリに移っていた。
12歳から年に2回、リーランドはアルバートに会いに行く。
ということになっていた。
しかし実際にはリーランドとアルバートは10年間会っていなかった。
12歳の訪問時、父に会いたくなかった彼は「楽しそうだから」と父に連絡し、
乗り継ぎのニューヨークで飛行機を降りた。
そして幸いにも裕福な夫婦に救われた。
ここでリーランドは夫人の瞳の輝きに憧れをいだくことになる。
これ以降、アルバートは年に2回チケットを送り続けた。
「世界を見ろ」と毎回行き先の異なるチケットを。
リーランドが父親に求めているもの。
それとは異なるものを与え続けてた。
彼なりに与えようとしていたのかもしれない。
しかし息子は父は自分には無関心だと感じてしまった。
そして彼は息子のことを本にしようと考える。
「過ちを犯し、承知しているからこそ本が書ける」
と彼は言う。
その演技をするケヴィン・スペイシーは狂気じみて見えた。
鳥肌がたった。すごい役者だ。
そして、この瞬間のアルバートに共感してしまった。
モノを作るために必要なもの。
自分も少し持っている気がする。


矯正施設で勤務する作家志望の黒人教員パールもリーランドに興味をもつ。
リーランドの父のファンであったことも関係するのだろう。
自分のクラスに配属されたリーランド。
彼がノートに書かれていた
『彼らが何を求めているか分かっている』の一文や
直接、話をすることでパールはリーランドの優秀さに気付く。
彼女が遠いLAで仕事しているのをいいことに職場の新人を浮気し、
匂いからリーランドに気付かれる。
「自分は弱い人間だ」と言っては
「それは悪いことをした人間が言うの言いわけだ」と指摘される。
若いリーランドの潔癖さは未成熟の証でもある。
話をすることで、歩み寄る2人。
それは長く続かなかった。
アルバートの密告によりリーランドの担当を離れることになる。
クラスを去るパールはリーランドからノートを手渡される。
『The United States Of Leland P Fitzgerald』と書かれた、
リーランドを彼が話をするきっかけになったノートを。
「それを読むことで“理由”が見つかるかもしれない」
もう会えないかもしれない。
最後にパールリーランドに与えた言葉は
「弁護士の話をよく聞くこと」そして
「過去は起きてしまったことは取り返しがつかないが人生を諦めてはいけない」
と言う大人の男としての助言だった。
彼自身、未熟な部分やだらしない部分がある。
それでも善良な人間だと伝わってくる。
しかし彼のだらしなさが最終的にリーランドに報いを与えることになる。


ベッキーの姉の恋人アレンはある事情から彼女の家に同居していた。
彼は大恩ある家族のために様々なことを行ってきた。
しかし家族の一員の死により家族は崩壊しようとしている。
恋人はアレンに別れ話を持ち出す。
すべてはリーランドのせいだ。
彼もまた若かった。
そう思い彼は犯罪を起こすことで矯正施設に入る。
そして機会を得た彼はリーランドに近づく。
手にしていたのはパールが食事用に持ち込んでいたナイフだった。


事件の直前、リーランドはニューヨークを訪れ憧れの夫人に再会していた。
しかし彼女は離婚し、リーランドが憧れた瞳の輝きは失われていた。
別れたベッキーのことを「人生の断片の1つ」と
さらに「信じて。人生は断片の総和以上なのよ」と諭す夫人。
そして流されるように一夜をともにしてしまう。
ここでリーランドが夫人の言葉を理解できていたら、
この悲劇は起こらなかっただろう。
情報だけ過多に持ち、経験の少ない彼にはそれができなかった。


洞察力こそ鋭いもののリーランドはどこにでもいる若者だ。
今の日本にもアメリカにも、世界中にたくさんいる若者の1人だ。
人とのコミュニケーションが苦手な少年だ。
心を閉ざしてから初めて好きになった少女に別れを告げられ、
憧れであった夫人に幻滅してしまい世界の悲しみしか見れなくなった少年だ。
許容範囲の狭い彼が自己を投影してしまったのは元彼女の弟ライアン。
ライアンは知的障害者であった。
負の連鎖の被害者となったのはライアンなのだろうか。
それともリーランドなのだろうか。
それともアレンなのだろうか。
これは誰にでも起こりうる悲劇かもしれない。

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「人生は断片の総和以上なのよ」