『みずうみ』よしもとばなな

大学生のとき、吉本ばななにハマっている友達がいた。
学生特有のぬるま湯のような時間のなか、一緒になって数冊、読んでいたけれど、今ひとつピンとこない文章が多かった。
「はっきりとした答えがない」
ギリギリ理系の大学生にはそう思えた。
ところが、社会人になって、色々な経験を積むうち、なんかいいかもと思えるようになってきた。
こういうことがあるから文章はおもしろい。


主人公のちひろと中島君の出会いは出会いといえるものでなく、
偶然の積み重ねで同棲するに至った流れはよしもとばななっぽい書かれ方。
どちらも同じような闇を抱えているけれど、中島君の方が少し深刻なようす。
女性の方が強いからなぁと思いつつ、後ろ向きな彼のそばにいてくれる、
彼が必要とするような人はなかなか得られないだろう納得できる部分もある。
優秀な中島君は傷の認識はできている。
認識したうえで、次に進まなければ、その傷はどんどん深刻な歪みをもたらしてしまう。
取り返しのつかない事態に進む可能性もある。
チイがちひろに見せたビジョンはまさにそれだろう。
タイトルの湖は中島君にとって大切な場所だ。
だけれど、水は死者を表す。
ちひろが永遠ではない場所にそれを写すことで、永遠ではない。
けれどそこにある存在に中島君は進めたのではないか。
そんな風に考えてしまった。


みずうみ

みずうみ

表紙が綺麗なんだよなぁ。